ブラッド・メルドー「Finding Gabriel」

来日緊急発売!と煽っているけど、ほんとに?
そういう感じとはちょっと違うと思うんですけど?

NPRに全曲フル試聴があがってる!すごーい!と飛びついて、全曲聴いてみた。
試聴は5月17日まで。それ以降はCDを買って聴きます。
聴いたそばからの一気書きなので全然まとまっていませんが、あしからず。

NPRは、正確には National Public Radio、アメリカ合衆国の非営利・公共のラジオネット、とのこと。
ラジオというより、YouTubeの「Tiny Desk Concerts」のところ…というイメージがある。
オフィスの狭い一角に一流ミュージシャンがやってきて、やけにレベルの高いライブをやる。編成が多いとやたら狭そうだったり、すごい大御所が出てきて、なぜあなたがそこに!? みたいなことがあったりと、かなり楽しい。
この「チーム・ガブリエル」も来てくれないかなあ。ピアノとシンセとあれこれ、ぎゅうぎゅう詰めて並べて、ドラマーは腕も伸ばせないようなスペースで激しいブレイクビーツを打ち鳴らし、ヴァイオリンとホーンとコーラスが集まってぎゅうぎゅう…ちょっと見たい。

さて、こちらの試聴は5月17日までの限定公開。
First Listen: Brad Mehldau, 'Finding Gabriel'

今回はジャケが派手。今までにない色づかいだけど「Taming the Dragon」にちょっと世界が似ている。
しかしその中でもBM本人は黒一色で無表情。隣の美人は誰なのよ。このラインナップだとベッカ・スティーヴンスかな? きれいな人だよね。姿も、声も。

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ゲストを多数迎えた異色作品。
編成は、ピアノ、シンセ、フェンダーローズ、ドラム、サックス、ヴァイオリン、コーラス、などなど。
BMファンなら今更「異色作品」「編成が普通のジャズじゃない」程度のことで驚いたりはしない。何を入れようが、聴けばなんとかなる。なんとかなるように作ってくれているのは、もうちゃんとわかっている。問題はそこじゃない。そんなことではない。

こちらに参加者リストが載っている。
ブラッド・メルドーが新アルバム『Finding Gabriel』が5月発売、新曲「The Garden」のMVあり:Amass
あと、どこかで公開されているのか、聖書の引用箇所も並べて示されている。
聖書。きっと重要な要素なんだろう。でも、そっちに目を向けるとドツボにはまりそうだから一旦スルーすることにする。「Seymour Reads the Constitution!」のレビューで「問題作だと思う」と書いたけど、これも、輪をかけて問題作になっている。

以下、全曲ざっくりレビュー。

1. The Garden
糸のようなピアノ、あやうい浮遊感のコーラス、疾く打つ心拍のようなバスドラム、からの、雪崩れ込むドラムとホーン。
マーク・ジュリアナ、この人の打つブレイクビーツ(細かくは知らないのでそれっぽいのは全部そう呼んでる)は超カッコイイ。超カッコイイ以外の形容詞が思いつかないくらいカッコイイ。激しいのにずっと聴いていられる気持ちよさ。

2. Born to Trouble
処理したピアノ音、楽器っぽくないカタカタ音はプリペアードピアノの中で何か鳴らしてる?と一瞬思ったけど、多分ちがう。
ちょっとレトロで、やけにセンチメンタルなマイナーのメロディ。誰かのオマージュなのかもしれない。

3. Striving After Wind
この音、Taming the Dragon でよく使ってたやつだね。

4. O Ephraim
C調の変拍子。穏やかなようで跳ねるリズムがあって、リラックスさせつつ不穏さを掻き立てる何かもある。

5. St. Mark Is Howling in the City of Night
シンセ、ヴァイオリン、ヴォーカル。そしてやっぱりドラムが超カッコイイ。
終盤、さんざん重なった音の高揚がフッと絶え、ピアノが聞こえた瞬間に、とてつもない安堵をおぼえる。

6. The Prophet Is a Fool
なんなのこれは。
まるで容赦のない不快さを突きつけてくる怒りの曲。
自分の作品のまんなかに磔の釘を打ち込むようなことを、どうして、敢えてしたんですか、と、訊きたくなる。

音の濁流。携帯の音。不快きわまるあの声。
そこに、子供の声、メルドー本人の声が交錯する。
もしかして、自分の子供と彼自身の会話をイメージしたりしてるのだろうか。だとしたら、まるで「Highway Rider」の、「The falcon will fly again」の再現のようだけど。
あのときの、子供の歌と自分の優しい笑い声をフィーチャーしていた空気とは、これは、あまりにも懸け離れすぎている。

それにしても、よくここまでしたな…としか言いようがない。「奴」は、それだけ彼にとって無視できない、自分の世界をこんなふうに土足で汚しにくるほどの敵だってことなのか。
怒りは怒りとして受け止めたいけど、この曲は一度聴いたらもう…二度目を聴きたいと思うまでに相当時間がかかりそう。
何十年後にこの作品が残ったとき、何も知らない人たちにどんなふうに聴かれるんだろう?
ちょっと怖い。

7. Make It All Go Away
濁流とカオスの後。火傷に冷水を当てるように穏やかに始まる曲。
聖女の歌声、やがて咆哮のような、切羽詰まった男声の叫びで断ち切られる。

8. Deep Water
瞑想的。水のような、森のような。ヴァイオリンの細い高音が美しい。

9. Proverb of Ashes
スピード感、プリミティブ感のある曲。
どれだけ世界を渡り歩いていても、あるいはだからこそなのかもしれないけど、この人はやっぱりアメリカ人であって、そこにがっつり根を張っているんだなあと改めて感じる。

10. Finding Gabriel
モヤっとしつつ、そのモヤっと感がBMらしくカッコイイ。
ガブリエルは受胎告知の天使。彼に答えを乞うメルドーの声が聴こえる。
左右の手で複雑な音列を使いこなし、普段はスペルの長い単語を並べて「すいません読みにくいんですけど!」って抗議したくなるくらいめんどくさい文章を書くその彼が、こんなベタベタにわかりやすい言い回しで助けを乞う言葉を発する。それがある意味ショッキング。
天使の答えは聴こえない。でも、そのかわりに、ピアノの澄んだ響きが救いの兆しのように聴こえる。

この曲は意外と短く、音楽はモヤモヤを抱いたまま淡々と終わる。
ピアノの音をもうちょっと聴いていたかったな…

この人はピアノを弾いてるときが一番いい。
それはもう、いろんなあれこれを凌駕し浄化するほど、とにかくいい。

あとは余談。
NPRサイトでは、Nate Chinenという人が解説を書いている。
必死になって全訳する時間が惜しいので、みらい翻訳につっこんでみた。結果がこちら。

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かなり優秀な翻訳という評判ではあるし、多分今までのものと比べたら断然そうなんだろうけど「庭です。」で笑っちゃった。
あと、メルドーさんの名前の訳し方がひどい。メルダウ、メldau、メアルダウ、メジュード…どちらさま? 固有名詞は難しいから仕方ないのかもしれないけど、読めないならいっそ全部欧文で綴ってほしかった。

最後に、一度スルーした話をちょっぴりと。
聖書から着想したというこのアルバム。とりあえず、ホセア書、「The Prophet is...」というセンテンスが、以前、「Seymour Reads…」を発表したきのノートに書かれていたことにリンクしている。
「Seymour…」のノートはwebサイトだけで発表されて、読まなきゃいけないような気がして必死で訳してみたんだった。
あのとき噴出した彼の怒りはまだ絶えていない。絶えていないどころか、ますます深くなっているようにも見える。
心配になるけれど、これだけ多くの共演者がこれだけの熱量で参加しているということは、大丈夫、と思って、いいんだろうか。

さらに最後。
完全に脱線して、Tiny Desk Concertから。
個人的に、「大御所、なぜあなたがそこに大賞」はこのひとたち。


Chick Corea & Gary Burton: Tiny Desk Concert

あなたたち、なぜそこに。そんな狭いとこにグランドピアノなんか詰め込んじゃって。
しかも、すっごい楽しそう。
チックさん、一時期より若返った気がする。シュッと痩せてて表情が明るい。
音色も溌剌としていて、とてもすてき。

BMが彼等くらいの年になったときにも、こんなふうに音楽を楽しんで、ピアノを弾いていてくれるだろうか。
そういられる世界であってほしい。
そのためにも今この怒りが必要だというなら、見守りましょう。

日本にはどんな顔で来てくれるだろう。
陽気にハッピーに、とは言わない。もともとそんなキャラではない。
それでも憂いなく、晴ればれとしていてくれるといいな。
待ってます。

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