「いきなりセブンス」有罪選手権

ディスクレビューではないけれど、ふと思い付いてちょっと面白かったのでメモがわりに。

「いきなりセブンス」とは、イントロからセブンスコード(7th、属七)で始まる曲のことで、私が思いつきでつけました。
選手権といってもただの一人遊びなんだけど、とりあえず今回は3曲エントリーしております。

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【1】J.S.Bach 「いざ、罪に抗すべし」 BWV54



せっかくなので、歌入りの演奏で。曲が始まるのは10:13から。
初めて聴いたのがこれなので、他の「名盤」と言われるものを聴いても「は、速すぎ!」と思うようになってしまった。

オラフソン君のお陰で、ものすごく久しぶりにこのカンタータの美しさを思い出した。彼もスローに弾いてくれるのでとても嬉しい。
この曲は冒頭からいきなり不協和音のセブンスコードで始まるのが印象的。ちなみにオラフソン君もインタビューの中で「オープンコードの中、7thや9thなどの音程がなって魔術的で瞑想的な曲です」と述べている。
「ヴィキングル・オラフソン インタヴュー 世界を切り拓く新世代ピアニスト」

この、冒頭の不安定なセブンスの和音が、抗うべき「罪」を表現しているという説を、どこかで目にしたことがある。そのときは「ふ〜ん」と読み流してしまったのだけれど、それでは、この美しい曲にどれほどの罪が織り込まれているのか。
ふと思い立って歌詞をひもといてみた。

ーWiderstehe doch der Suende,
 Sonst ergreifet dich ihr Gift.
 Lass dich nicht den Satan blenden;
 Denn die Gottes Ehre schaenden,
 Trifft ein Fluch, der toedlich ist.


ドイツ語が全然わからない。そして、いきなり日本語の機械翻訳にかけても要領を得ない。ので、英語翻訳にかけてみた。

ーResist the sin,
 Otherwise, you will be poisoned.
 Do not let Satan blind you;
 For the glory of God's honor,
 Hit a curse that is deadly.

(Google翻訳)

で、それをざっくり読むとこんな感じ?

ー罪に抗いなさい
 さもなければそれに毒されてしまうから。
 サタンに盲いられてはいけない、
 輝かしき神の栄誉のために
 死に至る呪いを打ち砕きなさい。


なるほど。
自ら意志を持って「罪に抗わなければ、毒される」というのは、現代にも通じる真実だ。
たとえば「行き過ぎた正義感」なんてものがそう。浸っている間は確かに快楽だけど、そこに溺れないように常に自制して抗い続けていないと、あっというまに人をモンスターに変えてしまう毒だったりする。

それにしても…罪と戒め、誘惑と自制の拮抗。
それがこんなにも妖しく心地よく甘美だなんて、許されるのか。身を任せずにいられないような美しいハーモニーと旋律に乗せて「抗え、抗え」と、苦行のような言葉を繰り返す。
バッハ…かなり悪い。悪い男です。いい意味で。

なるほど〜〜〜、と感心しつつ、そういえば「いきなりセブンス」の有名曲が他にもあったなと思い出した。
それらにも「罪」の気配はあるんだろうか? 遊び半分で並べてみたら、意外とあるんです、これが。


【2】David Bowie「Let's Dance」 



イントロから♪罪~〜罪〜~罪〜~罪~〜♪とアゲてアゲて煽ってくるこの曲。あげく、解決らしい解決もせず、けだるいリズムへ流れ込む。ユラユラ華やかな退廃、そして悪びれる気配もなく「踊ろうぜ」と言い放つあの声。
赤い靴履いて踊ろう(アンデルセンの時代から呪いの象徴だ)、月下で踊ろう、恋をしよう、二人で逃げたり隠れたりしよう。
なんという誘惑。しかもあの眼差し、あの美貌で。いや〜なにこれ。よろしくなさすぎる。美しすぎて罪深すぎる。
これは有罪でしょ。いい意味で。


【3】Coldplay「「Politik」



アルバム「A Rush of Blood to The Head」のオープニングになっている曲。
♪罪~~〜~!♪と、セブンスがズンズン迫ってきたかと思うと、♪反省~~〜~!♪と、同量のFmですぐさま解決。罪と反省が「はないちもんめ」みたいに行ったり来たりしている。そして、解決するのがマイナーコードというのが奥ゆかしい。
さらに罪と反省の繰り返しに、歌詞も呼応しているのが凄い。

 Give me real don’t give me fake
 真実をください、偽りではなく


時間を、余白を、強さを、自制心を、心と精神を、自信を、心の安寧を、くちづけを、
そして、愛を。
色んなものを「ください give me」と折り重ねて歌うのだけれども、求める相手は仲間や恋人ではないだろう。宇宙に在るもっと大きなもの、神と呼ぶべきような誰かに、求めても得難いもの、罪や悪から遠ざかるための善きものを、必死に乞うている。
Coldplay のクリス・マーティン、いい人だって、あっちこっちで聞くもんね。悪くなりきれないんだね…曲までいいやつなんだね…
これは…無罪寄りの有罪…罪あってこその無罪…どっちだろう…

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そしてただの一人遊びなので、選手権と言いつつ、優勝は決めないまま唐突に終わり。

「セブンスが罪深い響き」なんてことは、普段は意識することはない。
でも、こうして並べてみると、不思議とどれも「そういうふうに聴ける、理解できる」ものになり、歌詞まですべてがつながっているのがわかる。呼び起こされる感情にもズレはなく、教訓や共感、誘惑、震えるような敬虔さまで与えてくれる。それが音楽の、奇跡的に凄いところだと思う。

他の「いきなりセブンス」の曲はどうだろう。見つけたら、また聴いてみたいと思います。

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