2/4) Vikingur Olafsson「Johann Sebastian Bach」

ヴィキングル・オラフソン「J.S.バッハ」のまとまらないレビュー、2本目。
選曲編です。

●収録曲数

まず、全体の収録曲数が多い。収録時間は77分、トラック数でいうと35。
ただし、2曲1組の「前奏曲とフーガ」や12曲1組の「変奏曲」などが複数あるので、タイトル自体はもっと少ない。

これだけ曲数があると全体像が掴みづらい。輸入版を買ったのでライナーノートなどはなく、曲名を把握するには背面の曲リストを読むしかない。でもこれ、ただでさえ字が小さいのに、序文が入るわ、地模様的に写真が錯綜するわで、可読性とは…と途方に暮れるデザインになっている。どうしてこうなった。

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●何がどれだけ入っているのか

バッハの曲は、BWV番号で分類されている。作曲順や年代順ではなく、ジャンルで分かれているのが特徴。
WEBのトラックリストと「バッハ作品主題目録番号」を照らし合わせながら、どんな曲がどれだけ入っているかを表組にしてみた。

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●分類と編曲者

つまり、このアルバムには以下の16タイトルが収められていることになる。
・オルガン曲☆………………………………………4曲(コラール前奏曲、オルガン・ソナタ)
・オルガン以外の鍵盤楽器曲「前奏曲とフーガ」6曲(平均律クラヴィーアほか)
・オルガン以外の鍵盤楽器曲「練習曲」…………2曲(インヴェンションとシンフォニア)
・オルガン以外の鍵盤楽器曲「変奏曲」…………1曲(イタリア風のアリアと変奏曲)
・オルガン以外の鍵盤楽器曲「協奏曲」★………1曲(協奏曲ニ短調)
・カンタータ、モテット☆…………………………1曲(「いざ、罪に抗すべし」)
・室内楽曲☆…………………………………………1曲(無伴奏パルティータ3番より)

この中で☆がついているのは、オルガンやヴァイオリン、声楽や協奏曲など、ピアノ以外の楽器のために書かれた曲※1。それぞれがピアノで弾くために編曲されている。
編曲者はケンプ、ストラダル、ブゾーニ、オラフソン(演奏者本人)、ラフマニノフ※2。できるだけ多彩な編曲者を取り入れてやろうという意図が透けて見える。
そういう意味でいうと★は、マルチェッロのオーボエ協奏曲をバッハが鍵盤用に編曲したものなので、「編曲者:バッハ」として数えてもいいのかもしれない。(だめかもしれない)

※1 とはいえ、バッハの時代には「ピアノ」という楽器はまだ存在しないので、そもそも「ピアノのために書かれた曲」があるわけではない。あくまで「オルガン以外の鍵盤楽器曲」という分類になり、ハープシコードやクラヴサンなどのために書かれた曲ということになる。
※2 トラック27のシロティ編曲は、鍵盤楽器曲を鍵盤楽器曲に翻案したもので、他の6曲とは編曲の意図・経緯が異なると考えてここには並べていない。


●この選曲の「ツボ」なところ

さて、難しい話はおいておいて、あとは余談。
この選曲、個人的には「ツボ」なポイントが多かった。
この手の小品集はバッハの膨大な作品から選曲するわけで、必ず自分好みの内容になるとは限らない。平均律ひとつとっても「好きな曲」と「そうでもない曲」は確実にあるし、ピアニストの選曲センスによっては「全然ピンとこない」「むしろ聴くのが苦痛」な並びになることもそこそこある。
今回「これいい!弾いてくれてありがとう!」と気持ちが上がったのは、こんなところ。

・平均律クラヴィーア。第一巻10番、Eマイナー。
 「After Bach」でBrad Mehldau もプレリュードを弾いている曲じゃないですか。
 聴き比べさせてくれるの? 特別うまくて、個人的お気に入りな二人で? なんという贅沢。
 しかもEマイナーは、思い入れのある好きな調。うれしい。二人ともありがとう。

・協奏曲ニ短調、マルチェッロのコンチェルト。
 第2楽章をグールドが弾いている。これも「好きなバージョンが増える」という喜びが。
 

・コラール前奏曲「主イエス・キリスト、われ汝を呼ぶ」BWV.639
 Fマイナーも好きな調。しかもこの曲、自分でも弾く大好きな曲。自分の下手さを忘れて、無心に耳を委ねられる人での演奏がほしいと何年も思っていたので、彼が弾いてくれるなら願ったり叶ったり。
 そしてこの曲は同じくFマイナーの、平均律第1巻12番のプレリュードに雰囲気が似ている。こっちのプレリュードの方はBMが弾いてくれているのでなおさら幸せ。

・オルガン・ソナタ第4番 第2楽章 BWV.528
 初めて聴いたけど好きな曲。ベースラインがかっこいい。ジャズのウォーキングベースが好きな人にはぐっとくるはず。私はきました。

・カンタータ「いざ、罪に抗すべし」 BWV.54
 まず最初に通して聴いたときに「知ってるけど知らない曲」だと思った。音の記憶は何故かあるのに、曲名やどこで聴いたという記憶が全くない。CDは持っていない。映画のサントラなどで聴いた覚えもない。何だこれ?と混乱しながらYoutubeで検索したら、グールドの映像が出てきた。
 
 演奏は10:15秒くらいから。その前に解説しながら属7(7th)の和音を鳴らすところ、このテンポと歌声、そして歌手が楽譜を捧げ持って歌う姿…覚えがある。こ、これだー!
 学生時代、図書館に入り浸っていたとき、視聴覚コーナーのレーザーディスクで見た。記憶に埋もれていたけど、とても好きな曲だった。

ずっと前になくして、なくしたことすら忘れていた宝物を、綺麗に磨き直して返してもらったような気持ち。
オラフソン自身がアレンジを手がけたとのこと。
この曲を選んでくれてありがとう。

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